リード文を用いたTAT技法による自己分析
江夏 泰二郎
(206qa90)
キーワード:投影 無意識 気づき
目 的
TAT技法は質問紙や作業検査では得られない、被検査者の無意識的で力動的なパーソナリティーの側面に注目したいときに最適である。
自由な反応を引き出すことで、その個人のパーソナリティーを理解しようとする。また被験者に自分の反応の持つ意味を分からせないので、心の深層を語らせる事が可能である。個人の全体像、力動的なパーソナリティー像を理解することも可能である。その反面解答者への判断基準が確立していないため客観的採点が困難で検査者の熟練を要する。検査者の十分な訓練が必要。被験者のテスト場面での態度が、被検査者の反応に大きく影響するので注意しなければならない。
今回はTATの利点、欠点に注意しながらパーソナリティーの解釈へとつなげていく。
方 法
1.参加者:文学部心理学科2年男女20名
2.調査材料:TAT用紙はフェイスシート1枚、内容はタイトル「文章理解に対する研究」大学名、学部名、学籍番号、性別、教示文よりなる。2枚目から5枚目まで
リード文
質問@誰がいますか。何が起こっていますか。
学生が2人時間内に実習が終わらず、残って続けています。
質問Aこの前にこの人は何をしていましたか。なぜ今こんなことをしているのですか。
質問Bこの人は何を考え、感じていますか。この人は、どんなことをしたいのですか。
質問Cそして次はどうなりますか。という構成
3.ではリード文を読んでもらい、解答していく。(リード文は、状況を表している)その後の4つの質問はどれも同じで@誰かいますか、何が起こっていますか。質問Aこの前にこの人は何をしていましたか。なぜいまこんなことをしているのですか。質問Bこの人は何を考え、感じていますか。この人はどんなことをしたいのですか。そして次はどうなりますか。それぞれの状況は抽象的に自分の将来や人付き合いなどをあらわしていると考えられ、その後の4つの質問は解答者自身が感じていることである。リード文に続く文章作成例1枚、実際の解答は残り4枚で状況のみが変化している。最後に、社会的望ましさなどのバイアスを判定する用紙1枚からなる。
4.手続き:検査者が入室、TAT用紙を配布、配布後、検査者より教示が行われる。「机の上にはペン以外何も置かないように」「リード文1から4までに対し4つの設問があります」「1つの設問に対し制限時間は1分です」「時間より早く解答できても次の設問に移らず待機して合図があるまで待っておいて下さい。」「ペンは指示があった時のみ持つようにして後は机の上に置いてください」との説明がある。
全てに解答し終わると実験終了とみなし、検査者は、合図をして退室、10分間の休憩となった。
結 果
1.結果をリード文ごとにまとめると、以下のようになった。
(1)リード文1に対する実際の解答
質問@:学生が2人実習が終わらず、残って続けています。
質問A:学校の実習の課題を終わらせようとしてなかなかうまくいかず残る事になってしまった。
質問B:少々疲れ気味2人ともできるだけ早く実習を終わらせたい。
質問C:夜もだいぶふけ実習の課題は達成、遅くはなったが、2人とも充実した気分だった。
(2)完成した物語
質問@:学生2人が化学系の実習をしている。しかし実習は思うように進まず、残って続けています。
質問A:学校の実習の課題を終わらせようとしてなかなかうまくいかず残る事になってしまった。
2人の息が合わず遅れてしまった。先生ももう帰ってしまい。暗い中で2人の場所だけが明かりがついている。
質問B:少々疲れ気味2人ともできるだけ早く実習を終わらせたい。早く帰りたい。
質問C:夜もだいぶふけ実習の課題は達成、遅くはなったが、2人とも充実した気分だった。最後に居酒屋に寄って帰った。
(3)解釈
これは実際に心理学の実習中であったことからも分かるように先生には大変申し訳ないが、今までの実習でも理解がいまいちうまくいかず、今回は早く終わるといいなという気持ちの表れだと考えられる。しかし失敗するイメージが付きまとっているのは今までの実習でうまくいかなかったせいであろう。
リード文2に対する実際の解答
質問@:自分がいてRpか何かで困っている、ねむれなくて何度も起き思い出す
質問A:食事をとって少し落ち着いていた
自分でもなぜこんなことをしているのかと考えていた。それで少しずつ困ってきた。
質問B:眠れなかったりして落ち着かず解決策も出ない楽な気分で眠りたいと入浴
質問C:朝が来て全体的に見るとまあまあ眠れていた 2度寝したのが良かったようだ、しかし朝は弱い
これは昨夜実際にあったこと、何度もおき午前2時に起きたりして時計を確かめていた。それと次週休むことを先生に告げなければとのプレッシャーがあった。それが見事に自分の気持ちが現れていたので自分でも驚いた。
考 察
まず想定されたリード文に対して多くの人が出てこなく困っているというネガティブな回答が多かった。これは自分のパーソナリティー特性のひとつであろう。しかし設問のCでは明るい未来を予測させるような解答をしている。これはポジティブな思考ではなく、願望であると推測される。他2本道の例など悩んでいる事が多いことも分かった。それは、今までの人生の生い立ち、今の自分の境遇、潜在的にあるそれらの気持ちが、解答し終えて気づくまで自分自身意識していなかった。
TATについて学んだこと
TAT(Thematic Apperception Test)とは、モーガン、C.Dとマレー、H.Aが考案した投影法であり、主題統覚検査と訳される。日常生活での光景が描かれた絵を1枚ずつみせ、その登場人物の内面、そし過去、現在、未来について自由に物語を語ってもらう。その内容を分析することで、被験者のパーソナリティーや欲求を探り出すという方法。マレーの欲求=圧力理論に基づく分析が基本とされている。
投影法についての知識はある程度あったつもりであった。そしてTATがどういうものかも分かっているつもりであった。しかしそれはあくまで書籍等の文面上の問題であり実際にこれほど自分の考えが明らかになるとは思わなかった。投影法を行う目的としては第1に、臨床心理学的研究を行う時に人格を測定する道具としての利用、第2に心理臨床実践において、援助と介入の方針を立てるためのアセスメントでの利用、第3に、心理臨床実践において援助的かかわりの媒介物としての利用とされている。 また投影法の特徴は、被験者があいまいさの中に置かれるということがある。同じくアセスメント等のツールとして用いられる質問紙を比較対象として例に挙げると、質問紙は、刺激の点で投影法に比べ明確、反応の自由度は投影法が圧倒的に高い、解答時間の制限は、投影法が短い、採点においては、投影法が検査者の熟練を要する。質問紙法は、検査の意図が分かりやすく、社会的望ましさを意識したバイアスがかかりやすい。投影法はこのような点から推測しても、何を測定するかを十分に吟味し、それに合わせて使い分ける事が必要であろう。 投影法は、「想定しているのは他人」しかし「解答は自分のこと」である。無意識が浮かび上がる。無意識でなくても人に言いたくないことやこれは社会的に望ましくないと思えることは、普通は人には言わない。しかし、TATによって自分の悩みを素直に(素直にとは解答時には意識してはいないが)出しそれを再検証することは今の自分、しいては今までの自分の人生で培われたパーソナリティーについて知る良い機会になったと思う。今回は特に実際に被験者となるのが初めてというのがこれだけ自分の考えが解答に反映される理由の大きなファクターではないかと思う。解答には、個人のキャパシティー以外の答えは出ない。なぜなら自分で考え付かないことは文章化できないためであるように思う。また解答までの時間の制限は自分の無意識の部分を直感的に解答するために必要不可欠であると思う。解答に対しての時間をある程度与えられれば心理学科の学生ならばその意図を全部とはいかずとも理解し、解答を自分なりに社会的望ましさに照らし合わせて書くであろうし、また他者に知られたくないことは文章化しないであろう。結果解答にはバイアスがかかることのなってしまう。回答までの時間の制限はこういった意味でも重要でないかと思う。投影法はその設定のあいまいさから検査者の採点に熟練を要するなど簡便的ではないがその分、質問紙等では得ることのできないその人のパーソナリティーの内面を測る事ができるのではないか。心理学科の学生を対象とした心理検査では、得てして回答者側に質問の意図が読み取られやすい。こういった点では、投影法はその採点の難しさを克服できればさらに有用なものになるのではないかと思う。
引 用 文 献
下山 晴彦(編)(2003)よくわかる臨床心理 ミネルヴァ書房