まずストレス研究に大きく貢献した2人の研究者について触れたいと思います
ウォルター、ベルナルド、キャノンスが
「ストレス」という言葉を最初に科学論文で(1935)年に使用しました。
その後ハンス・セリエがその研究において
ストレス反応を「環境からの刺激負荷
(要求)によって引き起こされる
下垂体―副腎皮質ホルモン系を中心とした非特異的な化学反応」ないし
「生体に生じる生物学的歪み」であると明確に定義しました。
またストレス学説を提唱しました。
セリエのストレス学説は明確に
3つの段階に分けることができ
警告反応期、抵抗期、ひはい、疲弊期に 分類されます。
人は外部から寒冷、外傷、疾病、
あるいは怒りや不安などの精神的緊張などのストレスを受けるとまず警告反応期に入りますが、この段階ではショックに対して適応できていない段階。
体温・血圧・血糖値の低下、筋緊張の低下、血液の濃縮、急性胃腸潰瘍の発生などが見られ、数分〜1日くらい続きます。
次に抵抗期に入りこの段階では持続するストレッサーと抵抗力とが一定のバランスをとり、生体防衛反応が完成される時期です。
しかしこのストレスがさらに続くと、
ひはい、疲弊期に入り、適応エネルギーの消耗からストレッサーと抵抗力のバランスが崩れ、再び警告反応期に似た兆候を示すことになりますが、体温の下降、胸腺・リンパ節の萎縮、副腎皮質の
機能低下などが起こり、
ついには死に至ることになります。
生体としては危険な状態です 。
ですからストレスに長期間暴露されている事はいい状態とは言えません。
そしてラザラスもストレスに関しての定義をおこなっています。
では
どのようなストレッサーが
どれくらいのストレスを
引き起こすのでしょうか?
その指標の1つに
ホームズ&レーンのライフイベント論というものがあります。
ライフイベント論では例えば、結婚は50のストレスにな
るとしています。
また友人の死37などとされています。
以下 様々な人生上の出来事、ライフイベントとストレス強度との関係です。
順位 | 日常の出来事 | ストレス強度 | 順位 | 日常の出来事 | ストレス強度 |
1 | 配偶者の死 | 100 | 22 | 仕事上の地位の変化 | 29 |
2 | 離婚 | 73 | 23 | 子女の結婚 | 29 |
3 | 夫婦別居 | 65 | 24 | 親戚関係でのトラブル | 29 |
4 | 刑務所への収容 | 63 | 25 | 個人的な成功 | 28 |
5 | 近親者の死亡 | 63 | 26 | 妻の就職・退職 | 26 |
6 | 本人の大きなけがや病気 | 53 | 27 | 進学・卒業 | 26 |
7 | 結婚 | 50 | 28 | 生活環境の変化 | 25 |
8 | 失業 | 47 | 29 | 個人的習慣の変更 | 24 |
9 | 夫婦の和解 | 45 | 30 | 上司とのトラブル | 23 |
10 | 退職・引退 | 45 | 31 | 労働時間や労働条件の変化 | 20 |
11 | 家族の健康の変化 | 44 | 32 | 転居 | 20 |
12 | 妊娠 | 40 | 33 | 転校 | 20 |
13 | 性生活の困難 | 39 | 34 | レクリエーションの変化 | 19 |
14 | 新しい家族メンバーの加入 | 39 | 35 | 社会活動の変化 | 19 |
15 | 仕事上の変化 | 39 | 36 | 宗教活動の変化 | 18 |
16 | 家族上の変化 | 38 | 37 | 一万ドル以下の借金 | 17 |
17 | 親友の死 | 37 | 38 | 睡眠習慣の変化 | 16 |
18 | 配置転換・転勤 | 35 | 39 | 家族の数の変化 | 15 |
19 | 夫婦ゲンカの回数の変化 | 35 | 40 | 食生活の変化 | 15 |
20 | 一万ドル以上の借金 | 31 | 41 | 長期休暇 | 13 |
21 | 借金やローンの抵当流れ | 30 | 42 | クリスマス | 12 |
以上、
この表でどういったことつまりライフイベントがあれば、どのくらいのストレスがたまるかわかるわけですが、
よく考えてみると、配偶者の死や、離婚、結婚、友人の死などは、
そうめったにあるものではありません。
また、それらのライフイベントに対して
万人が同じ反応を示すとも考えにくいことも事実です。
そこでこの考え方に異論を唱えたのがラザラスやフォークマンであり、
もっと身近にストレスをはかる要因はないかと考え、これを日常よく起きる些細な出来事を対象として
それによってどの位ストレスが起こるかを研究、提唱しました。
そして上述したように、たとえ日常起こる些細な出来事でも
万人が同じ反応を示すわけではないと考え、それをストレッサー(ストレスを引き起こす原因)とストレス反応(その結果起こる、身体的、心理的、行動面での変化)
の間にあると考えました。
そしてそれを「認知的評価」とし、
ストレスに対して個人がそのストレスをどのように受け取るかでストレスの度合いは決まってくると考えました。
また、その認知的評価の結果、対象とする出来事がストレスを引き起こすものであると判断した場合、
それに対しての対処の方法、
つまり「ストレスコーピング」によってもストレスの度合い、ストレス反応はことなってくると考えました。
つまりラザラスのストレスに対する理論をまとめるとまず、
第一段階でストレスの原因を日常よくおこる些細な出来事
「デイリー、ハッスル」であるとし、
それに対しそのストレッサーは驚異的か、
など1次的評価を行い、
2次的評価において、
どういった対処をすれば、よいのか?を行い
結果、対処を行う。
そしてそれらの段階を踏んだうえで個人のストレス反応は決定される
ことになり、 先述したように例えば「結婚」イコール50のストレスを起こす、
ではなく個人的に結婚にたいしてどういったとらえ方をするか
そして、
どういった対処をするか、
実際行ったかを通して「結婚」によって引き起こされてくる
ストレスの程度が異なってくるわけです。
ですからマリッジブルーはマリッジレッドにもパープルにもなりえる、
ということです。
以上の過程でストレスがどのように起こってくるのかを
考えることができますが、ストレスをどれくらいかかえているか
ストレスがどれくらいたまっているかを測る事も大変重要です。
というのも過度なストレスはさまざまな害を及ぼすことがあるからです。
例えば心理面では落ち込み、イライラなど身体面では、不眠、
食欲低下など、行動面では過度の喫煙、飲酒などです。
そこでそのストレスを測る指標ですが、
生理的なもの、コルチゾール、クロモグラニンA、MHPG、アミラーゼなど、
心理的指標には質問紙形式の様々なものがあり、
免疫的指標にはIgA抗体などがあります。
体液反応 | コルチゾール | 血液中 |
カテコールアミン | 尿中 | |
クロモグラニン | 唾液 | |
アミラーゼ | ||
チオレドキシン | ||
免疫反応 | コルチゾール | 唾液 |
分泌型免疫グロブリンs−IgA |
しかし生理的指標や免疫的指標は客観的にストレスの度合いが
測れるという利点がある反面、測定にあたって
血液、唾液の採取そしてその分析など多くの手間を要する
という欠点もあります。
その反面、心理的指標は主観的な面からしか
ストレスの度合いを測ることができませんが、簡便、
かつ信頼性が高く汎用されているという利点があります。
ではそのストレスを測る
心理的指標にはどのようなものがあるのでしょうか?
大きく分けると2種類あり、
1つの要因例えば、抑うつ感などのみを対象として
ストレスの値を測るものと、
多数の要因不安、神経質であるなどを対象として
ストレスの値をはかるものがあります。
1つの要因のみを対象としたものは1次元的尺度とよばれ、
多数の要因を対象としたものは、総合的尺度と呼ばれます。
1次元的尺度にはBDI、SDSなどがあります。
質問数は比較的少なめです。
1次元的尺度;特定のストレス要因のみを測るもの
種類(略) | 正式名 |
BDI | Beck Depression inventory |
CES-D | Center for Epidemiologic Studies |
SDS | The Self-rating Depression Scale |
STAI | State-Trait Anxiety Scale |
MAS | Manifest Anxiety Scale |
総合的尺度にはGHQ、などがあり、
いずれも多面的に心理状態を測定しストレスを測ります。
総合的尺度;多様なストレス要因を測る
種類(略) | 正式名 |
HSCL | Hopkins Symptom Checklist |
SCL-90R | SymptomChecklist-Reversed-90 |
PERI | Psychtatric Epidemiology Research Instrument |
GHQ | General Health Questionnaire |
PSRS | Psychological Stress Response Scale |
SRS-18 |
そしてラザラスのストレスに関する
理論デイリーハッスル理論に戻りますが、
2次的評価のストレスへの対処の部分でストレスコーピングを
選択することになるわけですが、その分類としては、
個人の特性によるものいわば類型論のようなものと、
ストレスッサーによって変化するものの2種に分けられます。
個人の特性によるものはストレスの種類にかかわらず
その個人が血液型のように大まかに決まった対処をするという考え方です。
その個人の特性によるとされるもののまず1つめに
ストレスの対処に関して積極的にかかわるか回避するか、
ストレスを肯定的に受け止め、対処するかどうか、
ストレッサーを自分のせいにしてしまうか、
他のせいにするか
その他行動パターンから見た物があります。
そしてストレスの種類によって
その対処を変化させるものの一つとして
最もよく知られているものに、焦点にもとずく分類があります。
これは問題焦点型と情動焦点型に分類されるもので、
問題焦点型はストレッサーに対して、
その問題自体を変化させようとするものであり、
状況を変化させたり、問題を明確にしたりといったもので、
問題を解決することでストレッサーに対処しようというものです。
これに対し情動焦点型はそお問題自体に対する
自分の考え方を変化させてストレッサーに対処しようとするもので、
例えば大した問題ではないと考えたり、
問題そのものをしばらく考えないようにしたりするものです。
その他状況に応じて対処を変化させるものとして、
対処の方法をいくつか組み合わせて
その組み合わせをその都度変化させるものがあります。
そういったように対処のスタイルも様々なものがあるわけですが、
その対処に関しても
質問紙をつかった主観的な測定によりどのような対処をするのかを
ストレスの度合いと同様に、測ることができます。
その測定は大きく2種に分かれ
実験的なもの、調査的なものに分けられます。
実験的なものとしては、ストレス下に被験者を置き強制的に
対処方法を選ばせるなどの研究がありますが、
しかし、気を紛らわすとか問題を良い方向に考える
などといったものは実験者が
介入測定することは困難であるためほとんど用いられていません。
よって質問紙を用いた調査的なものが行われるのが一般的です。
調査的なストレスコーピング測定は、
対象とする被験者によってもその質問内容は異なってきます。
学校領域―学生を対象としたものでは
学校におこりうること例えばテストなどがふくまれているのが特徴です。
職場領域では、会社従業員のほか
看護婦、教職員、介護スタッフ、失業者を対象とした
尺度が含まれいずれも
職種に特有なストレッサーへのコーピングを測定することを
目的とした研究が多いのが特徴です。
臨床領域では臨床領域には障害を持つ人や
患者を対象とした尺度が含まれ、
「痛み」等の症状そのものに対するコーピングや、
障害や疾患があることによって生じる
生活上の問題へのコーピング測定することを
目的としたものが多いのが特徴です。
一般領域では被験者の属性に依存しない
コーピングのメカニズムの解明を目的とした研究が多いのが特徴です
ここでストレスコーピングの方法や力を測定する
質問紙を例にあげると、
比較的一般的なものにTAC−24があります。
この質問紙は先述した対処ストレスに対して
積極的か回避的かと、焦点による対処問題焦点型か情動焦点型か、
と方法はどうするか認知的か行動的かを組み合わせて作られた
3次元のストレスコーピング尺度です。
他にもストレスコーピング能力や方法を測るテストは
いくつかありますが、ストレスコーピングを測ることは
ストレス反応を決定する上で重要な要因となり、
先ほどのようにその結果生まれたストレスが
心理面や、身体面、行動面に影響を与えます。
が、以下心理面と、生理的な面について述べたいと思います。
ストレスコーピングが心理面に及ぼす影響としてコーピングが
心理的反応に与える影響として
問題を解決する、計画を立てる、情報を収集するなどといった、
ストレッサーの解決に焦点をあてたコーピングは、
不安や、抑うつといった心理的なストレッサーの緩和する
作用があるということ、
また情動に焦点をあてたコーピングの中でも
肯定的に物事を捉えようとする良い方向に
解釈しようとするなどといった肯定的な解釈は、
不安感情を低減することが明らかにされています。
生理的側面に及ぼす影響としては統制感の高い状況で
精力的に接近的・問題解決的コーピングを行う事は、
自律神経−副腎皮質系の内分泌活動を活性化することや、
心臓血管系の反応を亢進するつまりHPA軸を介した
神経系の賦活化が起こり、コルチゾールなどの分泌が高まること、
またSAM軸が賦活化されることで、
結果自律神経系の交感神経系が優位になり
血圧の上昇、心拍数の上昇が起こるといったことです
また脅威性が高く統制間の低い状況で
回避的・受動的コーピングを行う事は、下垂体−副腎皮質系の
内分泌活動を活性化するといわれており
HPA軸の賦活化が起こります。
またコーピングには経時的にその方法、力は変化すると考えられており
テストを例にした研究ではテスト前とテスト後でコーピングの力、
方法が変化していることが報告されています
コーピングの効果という側面からみて、
心理的な負担を減らすことを目的としたものである
緩衝効果と身体的な負担を減らすことを目的としたものである
直接効果の2種類があるとされており
焦点にもとずくものとの関係では問題焦点的解決は
心理的負担は下げるが、身体的負荷は上がる
ということが分かっています
コーピングの組み合わせはいろいろなものがあり、
2つの組み合わせを2次元的、3つでは3次元的といわれています
以上ストレスコーピングを中心に、
現在までに明らかになっていることを述べました。
かなり断片的になってしまいわかりづらいかと思いますが、
今後の理解につながればと思います