クリティカルシンキングという観点からの問題商法


 クリティカルシンキングという概念は医療領域でいうEBM(エビデンス:根拠、証拠に基づいた医療)に近いものではないかと考えられる 様々な議論を、明白かつ合理的な基準にのっとって体系的に評価する方法、ある主張をそのまま受け入れず主張を構成する根拠を批判的に吟味し(嘘、や架空の根拠を正しく評価し)、論理的に(感情や心理的バイアスに流されず)意思決定を行う といった一連の思考の技術と態度である この様な視点が問題商法に対策を講じる上で必要である 
悪質な問題商法については多様な種類があるが国民生活センターからの4,5年前の問題商法の名称、商品、サービス、勧誘法、問題点に関するデータを以下にあげる

名 称 おもな商品、サービス おもな勧誘方法と問題点
マルチ・マルチまがい 健康食品、美顔器、浄水器化粧品、ファックス、ふとん 「もうかる。」と商品の販売組織に誘われ、友人など次々に組織への加入者を増やし、商品を購入させていくと利益が得られるというもの。勧誘時の成功話と違って思うように加入者を獲得できないので、収入もなく、借金が残ることになる。
商法(連鎖販売取引)
先物取引商法 (国内市場)金、トウモロコシ、大豆、ガソリンなどの先物取引 同郷または大学の後輩などと偽って近づき、信用させておいて、「金や大豆などの先物は今買っておけば、数年先には相場が上がり、利益になる。」といって契約を迫る。いったん取引に応じると、やめさせてくれず、次々にお金を出させ、結局大損になる。
(海外市場)トウモロコシ、大豆、砂糖など
ネズミ講 組織に加入し、金銭、有価証券などの配当 後から組織に加入した人が支出した金銭を先に加入した人が受け取る配当組織。「無限連鎖講の防止に関する法律」によって、金銭に限らず有価証券なども禁止された。最近はインターネットや電子メールを利用して勧誘するケースが増え、従来の口コミに比べ、広範囲、瞬時に広がる危険性がある。
現物まがい(預託)商法 和牛などの飼育動物、鳥類、金、ゴルフ会員権 和牛や金などの商品・サービスを買わせ、それらを預かり、期間経過後高い利息をつけた価格で買い取るというもの。実際は現物を消費者に引き渡すこともなく業者が現物を持っているかも疑わしい。
アポイントメント 絵画、宝石、パソコン、割引サービス、会員権、CD−ROM、ビデオソフト 「景品が当たった。」「旅行に安く行ける、会って話したい。」などと、販売目的を隠し、「あなただけは特別。」などと、有利な条件を強調して電話で営業所や喫茶店に呼び出し、商品やサービスを契約させる。
セールス
キャッチセールス 化粧品、美顔器、エステティックサービス、絵画、映画鑑賞券 駅や繁華街の路上でアンケート調査などと称して呼び止め、喫茶店や営業所に連れて行き、応じるまで解放しない雰囲気にして商品やサービスの契約をさせる。
無料商法 エステティックサービス、化粧品、健康機器、浄水器、和服、ふとん 「無料招待」「無料サービス」「無料体験」など「無料」をセールストークにして広告やチラシで、人を集め、高額な商品やサービスを売りつける。
アンケート商法 浄水器、化粧品、美顔器、絵画、映画鑑賞券、エステティックサービス 「アンケートに答えて。」などと、話しかけてきて、「このままではシミ・しわになる。」などと不安をあおって化粧品を売りつけたり、今後値上がりすると説得して絵画などの商品を売りつける
モニター商法 浄水器、美顔器、ふとん、和服、痩身エステティックサービス モニターになって、そのモニター料を代金の支払いにあてることを条件に、商品・サービスを無料で格安で提供すると思わせて商品を契約させる商法。
SF(催眠)商法 羽毛ふとん、磁気マットレス、電気治療器、健康食品 「くじに当たった。」「新商品を紹介する。」といって人を集め、閉めきった会場で台所用品などを無料で配り、得した気分にさせ、興奮状態にしておいて、異様な雰囲気の中で最後に高額な商品を売りつける。
ネガティブ・オプション 雑誌、ビデオソフト、新聞、単行本 商品を一方的に送りつけ、消費者が受け取った以上、支払わなければならないと勘違いして支払うことを狙った商法。代金引換郵便を悪用したものもある。福祉目的をうたい、寄付と勘違いさせて商品を買わせることもある。
(送りつけ商法)
点検商法 羽毛ふとん、消火器、白アリ駆除、耐震診断、屋根工事 点検に来たと言って来訪し、「ふとんにダニがいる。」「白アリの被害がある。」「工事をしないと危険。」などと、事実と異なることを言って不安をあおり、新品や別の商品・サービスを契約させる。
実験商法 浄水器、洗剤 試薬などを使い、その商品がいかに効果があるかの実験をして見せ、他の製品が危険・有害であるかのように誤認させて、商品を売りつける。
見本工事商法 ベランダ、カーポート、外壁サイディング、サンルーム、ソーラーシステム 「目立つ場所で宣伝になる。」「カタログに写真を掲載させてもらう。」など住宅設備関連の商品や工事を特別に安くするような言い方で勧誘し、実際には、ずさんな工事や安全性に問題があるものを売りつける。
資格商法 電験三種(第三種電気主任技術者)、行政書士などの国家資格取得講座や財務・税務などの民間資格取得講座と教材 電話で「受講すれば資格が取れる。」「もうすぐ国家資格になる。」などと執拗な勧誘をし、講座や教材を契約させる。最近は以前の契約者に対し、「資格が取得できるまで契約は終わらない。」と継続しているかのように説明し、何度も契約させる二次被害が出ている。
就職(求人)商法 和服、婦人下着、タレント養成講座 「展示会での販売のお手伝い」「商品宣伝のアルバイト」など、就職(求人)の広告で人を集め、応募者に、「仕事に必要だ」などと商品を売りつける。
内職商法 あて名書き、チラシ配り、データ入力、テープおこし、パソコン、ワープロ 「在宅サイドビジネスで高収入を」「資格・技術を身につけて在宅ワーク」などの広告で勧誘し、材料や高い機械を売りつけたり、講習会と称して多額の受講料を取ったりする。実際は、仕事にならず、ほとんど収入が得られない。


 勧誘法を見ると非常に匠、かつ多様化しているように考えられる これらのデータは4,5年ほど前のものなのでこれに加え、さらに「振り込め詐欺」(2009年現在)のような新手の詐欺が増え続けている この様な問題商法に対し上図のように提示された文面だけで見る限り多くの人は「自分はだまされない」と考えるだろう ならばなぜ騙されるのか? それは通常なら購入しない商品、サービスを購入させるための悪質業者の「意思決定まで導く:手段」が存在するからである 虚偽を含む手段を用い、その手段がなければ購入しない、もしくは問題商法であると考える者を商品やサービスを消費者が購入するように意思決定の変容を起こす手段である その手段が人が意思決定に至るまでに精査する「前提の理解」「情報の探索(多面的検討)」「情報の評価」「結論の導出」に至るまでの4つの段階と言われるものを、欺くわけである 以下に問題商法を行うものが、いかに匠に、(この意思決定には4つの段階を踏むという前提で)そのフィルタを欺くかについて述べる 
 
 意思決定に至るまでの4つの段階の「前提の理解」とは商品に関する情報を提示される段階でありその情報をどう「認知」するかである 印象形成における第一印象の様なものであるからその商品・サービスに対する信憑性などの形成において特に重要なものであろう 悪質業者の手口として商品に関する情報をそのまま提示してはもちろんその商品、サービスは消費者にとって拒否される(それは冷静な観点からすれば) 悪質業者は「前提の理解」段階で情報のコントロールを行う それは分かり易く言えば「この商品は格安」、「このサービスはお得」といった情報を提示するが「ただし・・・・」の部分に関する情報は提示しない事である 商品・サービスに関する情報を良い部分、悪い部分に関して全部提示した場合と比較すると当然のことながら極めて商品・サービスに対する「前提の理解」が異なってくる 上の表に示されている問題商法のいくつかもこの手段を使い、「前提の理解」を欺いていることは明白である 最初に提示される商品・サービスに関する情報を際立たせる心理的な技術として不安・恐怖をあおる情報を先に提示することにより消費者を不安にする手段や 上の表ではアンケート商法、点検商法、実験商法などがこれにあたると考えられる 

 また消費者の不安や恐怖をあおり商品・サービスを購入させる手段もある 例えば先祖の霊が祟っているといいそれを回避するために何の価値もない壺やお札を購入させる霊感商法、健康への不安に対して高額な健康食品(医薬品ではない)を売り込む手口、繰り返し電話などをかけてきて消費者の精神的不安を誘発し商品サービスを購入させる手口も存在する 人の自己実現欲求に付け込んだ資格商法(マーケットを意図的にそこに発生させる関連する商品・サービスを購入させる)がある

 
 色々な手段があるが、ここで消費者にとって重要なのは冷静さを取り戻し改めて与えられた情報の信憑性などを吟味する事である その際にクリティカルシンキングの重要性が問われる しかし問題商法の種類によっては「冷静さ」が「前提の理解」をコントロールする上で邪魔になる事を理解した上で その「冷静になる間を与えない様にする手口」を取る商法がある 例えば上の表のアポイント、キャッチセールスなどである「景品が当たった」「旅行に安く行ける、会って話したい」言われれば誰もが冷静さを多少なりとも失うであろうしまた街頭で「アンケート調査」に答えてほしいと言われればまさか商品・サービスの勧誘だと即座に冷静に考えることのできる人は少ないだろう またこれらの商法はその後意思決定に至る2つ目の段階である「情報の探索」を著しく阻害する 喫茶店や営業所などに電話で呼び出し消費者の思考の誘導を特定の外部の情報が出来るだけ遮断された領域に置くことで、消費者が与えられた情報に対する外部の情報を探索する事による正しい「情報の評価」を妨げ「結果を導出させる」 上にあげている問題商法はそれぞれ個別に「前提の理解」「情報の探索(多面的検討)」「情報の評価」「結論の導出」の4つの点を巧みに欺き支払う金額に見合った対価を得ることができないような商法である 

 なお、交渉術としての技術も細分化されており巧みに心理をついた方法がある 以下にいくつか紹介したい
1、フット・イン・ザ・ドア:まず小さな要求から始め徐々に要求を大きくしていく方法
2、ロー・ボール:故意に相手が認め易い要求を行い、相手が受け入れた時点で付加的に要求を行う
3、ミラーリング:相手の言葉遣いや、身振りを真似し互いの波長を合わせて説得する方法
4、ドア・イン・ザ・フェイス:初めにあえて大きな要求を行い、相手が断った時点で小さな要求を行う
5、フレーミング:相手の比較点を狂わせ正常な判断を行えなくする
6、ショッピングリスト方式:本当に欲しいものをあえて隠し、他の物を欲しがるような素振りをみせる手法
など 

これらの手段は必ずしも悪い違法性のあるものではなく優秀なセールスマンも使うテクニックであるならば問題商法の悪徳セールスマンとの違いはどこにあるのか それは問題商法は商品・サービスの除法に偽りがあるという事、価格対商品価値、などにある
 


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