心理学は英語で”psychology"といいます。その語源はギリシャ語の”psyche"(心)と”logos"(学)にあります。
人間は喜怒哀楽を本人が感じたままに報告できますが、しかしその喜怒哀楽の意識を”心”と考え得られた”心”の知識で日常、他者の心の状態を把握、理解する事はいわば「日常の心理学」であり知識体系をなしていません。
一方「学問としての心理学」は主観だけでなく客観的な事実などの知見を科学的(Science)に研究、体系化する事でなりたっています。
本人が感じる喜び、怒り、哀しみ、楽しみといった意識に焦点をあてたものは”内観法”と呼ばれます。”内観法”とはその人自身の感情の報告によって”心”について知る方法です。
しかし、その様な方法で”心”を説明する事には多くの欠点があります。
1、他者からは分からないため客観性に乏しい。
2、意識だけでは心全体を説明できない(意識に上がるまでの心的過程、例えばその背景にある無意識は当然ながら意識できない)。
3、意識を観察し理解しようとすると対象となる人の”観察されている”という状況がその意識に影響を与えてしまう。
4、幼児や障害者など相手が内観による言語報告が不可能な場合。
そのため、現代心理学においては心を捉える際には主に行動から心を見ます。
行動とは例えば”しぐさ”や”表情”、”生理的反応”です。
行動を対象とすることで無意識の把握も出来る事となります。
心理学研究においての客観的な事実を科学的に捉える方法として以下のものがあります。
1、行動観察法
2、実験法
3、調査法
4、事例研究法
5、検査法
1、行動観察法は研究目的に沿った人の行動を観察するものです。日常場面における特定の場面で人がどのように行動するかを観察、記録するものです。
2、実験法はある現象に対する行動反応を記録するのもので制約された条件をつくり、例えば1つの条件以外を一定にしその1つの条件を変化させそれに対する行動反応の変化を記録するものです。
それによって収集されたデータから条件の変化が及ぼす行動への影響を観察する事ができます。
変化させる条件が1つである場合、1要因実験であり変化させる条件が複数の場合多要因実験となります。
3、調査法は現実社会での人々の興味、嗜好、意見、などを比較的多数を対象としあらかじめ用意したアンケート用紙でデータを収集するものです。
4、事例研究法は少数または個人に長期間わたって調査、検査する方法です。
5、検査法は個人、または集団の能力「知能、性格、学力、知識など」を調べる為の検査です。既存で妥当性を吟味した多くの検査があります。
心的過程は環境に対する適応行動と言えます。
その過程ですが人はまず環境から「感覚、知覚」によって情報を得ます。
取り入れた情報とそれまで得ている情報とを「思考」によって照らし合わせます。
そして最終的な行動の遂行へといたります。
その過程を個々に研究する領域として「知覚心理学」「学習心理学」「認知心理学」などがあります。
心の成長を研究する領域として「発達心理学」があります。
また社会状況に応じた個々の行動や心的過程を研究する領域として「社会心理学」があります。
昨今、メディアなどで説明されているものには「社会心理学」が最も多いと言えます。
その他、昨今では日常生活において他の領域においても応用されており「教育心理学」「産業心理学」「健康心理学」「環境心理学」「健康心理学」「犯罪心理学」などその研究領域は多岐に及びます。
「心理学の過去は長いがその歴史は短い」
1908年にエピングハウスが述べた言葉です。
その真意ですが科学としての心理学が科学(Scienceとして)独立した年は1879年と学問としては比較的最近になります。
しかし、心に関する関心ははるかそれ以前からであり「われ思う、ゆえにわれ在り」17世紀前半に活躍した近代哲学の父デカルトの言葉です。
その頃既に心理学の元となる哲学があったわけでありそういった意味を考えてエピングハウスは「心理学の過去は長いその歴史は短い」と述べたと考えられます。
心理学の源流は哲学であり、中でも経験哲学は17世紀から19世紀までイギリスの哲学者達によって形成され発展しました。
近代の心理学の源流となった経験哲学は17世紀から19世紀までイギリスの哲学者達によって形成、発展しました。経験哲学では人間は白紙の状態で生まれ(タブラ・ラサ:tabula rasa)世界に関する全ての知識を経験から得るとした考えを中心としています。
つまり生まれ持ったものは経験哲学の概念になかったわけです。
その後、自然科学者による研究が大きな功績を残します。
例えば生理学者でありまた物理学者であった科学者ヘルムホルツは、色覚に関する3色説、聴覚に関する共鳴説を唱え、人間の知覚が生理学的なもので説明できるという面で大きなインパクトを与えました。
また、物理学者のフェヒナーは精神世界属する感覚と物理的世界に属する刺激との関係を解明する領域として、精神物理学を提唱しました。
その後、心理学1879年に独立します。
当時、医学博士であったヴントが生理学から心理学にその研究を移しライプチヒ大学に心理学実験室を創設したのが心理学元年とされています。
ヴントの心理学は意識、要素、構成主義を特徴とします。しかしその後ヴントの心理学も下火を迎えます。それは様々な批判が起こったからです
20世紀に入って、精神分析学(フロイト等)、ゲシュタルト心理学(ウェルトハイマー等)、行動主義(ワトソン等)の3学派が生まれました。
その後、認知心理学が台頭し、行動主義の役割は影を薄めていきました。認知とは認識の意味で知覚、記憶、思考も含まれます。
ちょうど、その当時のコンピューター科学の発展によってコンピューターの仕組みの様に心的過程も情報処理のように例えられ始めました。
その後、知覚、学習、思考、推理、問題解決、概念形成、言語、理解などの統合的かつ融合的な研究が始まりました。
結果、「生活環境からの情報の獲得」→「保存」→「保存した情報を利用して適応行動を遂行する」というモデルが形成されます。
近年では心理学と生物科学の融合が進んでおり例えば脳の神経機能から心を説明する事も進んでいます。
そうして近代の心理学が確立されてきたわけでありますが現在、心理学は臨床心理学をはじめとして「社会科学」ではなく「人文科学」としての側面も持ち人は一人一人がそれぞれ異なった行動をするという当たり前の現実を前提にその行動様式を様々な側面から捉えています。上述したいわば近年の心理学の流れ以前はどの様な事があったのでしょうか。大まかにいうと以下の様になります。
心理学の歴史
紀元前4、 5世紀
ギリシャ哲学
様々な観点から心のモデルが提示
アリストテレス:現在の心理学の源流を樹立
5、6世紀
中世哲学
キリスト教的なドグマの影響
トマスアキナス:アリストテレスの思想の復活
17世紀
近世哲学
ベーコン:科学の方法として実証主義を重視
デカルト:研究対象が意識であることを論理的に明確化
17世紀末
連合心理学
経験主義の考え方:心(意識)の内容は全て経験によって形成される
生理的な概念の存在を認めない
19世紀
自然科学の著しい発達
ヘルムホルツによる感覚知覚の実証実験
心的現象の科学的研究の可能性を示唆
フェヒナーの精神物理学
物理量と心理量の関係を研究
実験法数量化の方法の開発
ダーウィンの進化論
人間と動物の連続性個体差環境への適応
個体の発達という考え方が心理学に影響
心理学の独立
ヴントの実験心理学
世界最初の心理学実験室の創設
実験法と内観法を採用
意識活動を心的要素で構成
20世紀初頭の3 学派
ゲシュタルト心理学、行動主義心理学、精神分析学
ゲシュタルト心理学
要素主義を批判
心的過程の全体性を重視
主体の認知を重視
行動主義心理学
意識主義内観法を批判
客観的観察可能な行動を研究対象に
全ての行動は刺激のみの関数と考える
精神分析学
精神の無意識領域の発見
精神内界の構造や力動の研究
発達や障害の過程を理論化
動機を重視
新行動主義心理学
行動主義の極端な主張を修正
主体が能動的に行う自発的行動を研究
行動を刺激と主体の両者の関数と考える
主体の内的要因(動機、期待)などを重視
認知心理学の成立
認知心理学
新行動主義心理学の限界
多くの心的過程が研究対象からもれる
行動の背後にある内的過程に着目
情報科学コンピュータ科学のように心的過程を情報処理過程と考える
認知過程の解明、研究
主体の能動性、意味を重視
心的過程のモデル化と研究